運動錯覚を使ったインタフェースを考える
Haptics Advent Calendar 2019 - Adventar
12/21 の記事です.(1日遅れてしまいましたが...)
本記事では,運動錯覚という現象の紹介とそれを利用したインタフェースのぺーぺーなりに少し考えてみます. 拙い文章ですがお付き合いください...
(すごく真面目になってしまったのでもう少しふざければよかったです)
自己紹介
なかう (2019/12/21 現在) です.
電気通信大学 学部4年で現在は運動錯覚について研究しています.
運動錯覚とは?
早速ですが,運動錯覚について説明したいと思います.運動錯覚というのは名前の通り身体の運動の錯覚です.少し大袈裟に説明すれば,身体の動きを伴わずに運動している感覚のみを感じさせることができる錯覚です.
触覚の中では,自己受容感覚(深部感覚) に類するもので,主に筋肉(の中の受容器)が関係してくる現象です.
原理について
運動錯覚の原理について詳しく説明します.筋肉の中には筋紡錘という筋肉の長さを常に監視している受容器があります.この筋紡錘というのが自己受容感覚にすごい寄与していると言われています.つまり,筋肉の長さによって腕の位置などを把握しているとも言えます.
そこで,この筋紡錘(Ia群線維)を外部刺激により発火させることで脳は実際に動いていなくても動いていると錯覚してしまうというのが主な原理だと言われています.
(筋紡錘は筋が伸びるときに発火頻度が上がるので,筋が伸びる錯覚が生起します)
他にも,皮膚感覚 (Collins et al. 2005) や視覚(Hagimori et al. 2019)が影響しているみたいです.
生起させる方法
一般的な方法は,腱(筋と骨とをつなぐ部位) に振動刺激を加えることで生起することが知られています.何で腱を刺激しているのに筋肉内の筋紡錘が発火するんでしょうか?腱(ゴルジ腱器官)は反応しないのか?不思議ですね.
主神経科学の分野で主に研究が行われている(と印象を受ける)現象です.生起している時の神経発火を直接観察することで,筋紡錘が関係しているということも発見されました (Burke et al. 1976)
Kajimoto 2013 では肘の腱に電気刺激を加えることで運動錯覚(のような?)現象を観測しています.
Collins et al. 2005 では皮膚変形だけでも生起できたことを報告しています.
こうしたことを考えると,比較的高次な部分で起こる錯覚であると分かります.
どう応用するか?
運動錯覚について書いてきましたが,ここからが本題です.
運動という感覚を外部から制御することができれば,寝たまま走れるVRだったり,直立したまま空を飛ぶVRが実現できるかもしれません.VR に限らず,運動を拡張できる現象だと考えればいろいろと可能性を感じますね
実際に,歩行VR を実装した研究もあります(Leonardis et al. 2013)
運動錯覚(腱振動)の課題点
そんな簡単にうまくはいかないのが現実です.腱振動運動錯覚を応用する上で解決しないといけない点がそれなりにあります.
① (inverted) TVR
TVR というのは,Tonic Vibration Reflex の略で振動を加えることにより筋が収縮してしまう現象です.腱反射(膝を叩いてかくんとするやつ)みたいなイメージです.
これは,運動錯覚と同じような経路で神経発火が起こることで生起してし,運動錯覚とは逆方向の運動が生じてしまいます.(TVRが起こる条件,誰か教えてほしいです本当に)
大体の研究では,刺激する部位を固定することでTVRを防いでいるように見受けられます.動く必要がないなら固定すればいいと思いますが,あくまで錯覚なのでリアルな動きと組み合わせることでその効果が一番発揮されると個人的に思います.そういうことで,ウェアラブルなデバイスにするとなると,安定して任意の方向に錯覚を生起させる方法を考えないといけません
inverted TVR というのは,錯覚が生起することで刺激していない拮抗筋が活性化するという現象で,実際に腕が錯覚の方向に動くことに寄与します.
以上のことを踏まえると,運動"錯覚"と言いながらも,実際にかつ二つの方向に動いてしまう可能性があるということです.
② 個人差
錯覚なので,もちろん個人差があります.起きるor起きないの二値なら比較的簡単なのですが,①のTVR が絡んでくるので少し複雑です.少し強めの振動になると,TVRが起こってしまう確率が上がる気がします.
ただ,これは筋肉だけでなく他の感覚つまりマルチモーダルにすることで解決できると期待しています.
設計について
これらの課題を踏まえたうえでどういうインタフェースがよさげか考えてみます.
0. マルチモーダルにする
運動錯覚のみを利用するというのはやっぱり愚策だと思います.やっぱり運動というのは様々な感覚入力を受けて行っているものなので複数の感覚を利用するのが自然だと感じます.特に視覚を利用しない手はないと思います.
1. シンプルに固定してしまう
簡単なのは,固定するという状況が合理的なアプリケーションを作成するということ.固定することによる「固定感」はやはり生起してしまうので,その感覚がアプリケーションを阻害しないようにデザインするのが大切だと思います.
(電気椅子とかに固定して拷問するシチュエーションとか面白そう ... ... ??)
2. リアル動作と組み合わせる
現実に勝るものなしということで,リアルの動きと組み合わせるというのも考えられます.Hagimori et al. 2019 では,視覚ベースの運動錯覚で腱振動を加えることで錯覚を増強,つまりリアルの動きをより錯覚させることができるという報告がされています.
最後に..
すごく真面目で,長くなってしまいました.とりあえずは運動錯覚というものを知っていただけたら嬉しいです.
何か面白いものが作れたらいいなぁ.